東京高等裁判所 平成6年(行ケ)114号 判決 1997年11月05日
アメリカ合衆国
カリフォルニア州 90045-0066 ロサンゼルス ヒューズ・テラス 7200
原告
ヒューズ・エアクラフト・カンパニー
代表者
ワンダ・ケー・デンソンーロウ
訴訟代理人弁理士
鈴江武彦
同
村松貞男
同
中村和年
同
布施田勝正
同
野河信久
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
小原英一
同
江塚政弘
同
宮本晴視
同
及川泰嘉
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者が求めた判決
1 原告
特許庁が、平成3年審判第13625号事件について、平成5年12月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1984年5月14日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、1985年4月17日を国際出願日とする国際出願として、名称を「低電圧制御を用いるモジュレータ・スイッチ」(後に「スイッチ開閉制御方法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭60-501911号)が、平成3年3月20日に拒絶査定を受けたので、同年7月15日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成3年審判第13625号事件として審理したうえ、平成5年12月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年1月19日、原告に送達された。
2 本願発明の特許請求の範囲第10項の記載
冷陰極電極とソース・グリッド間のギャップ、ソースグリッドと制御グリッド間のギャップ、及び制御グリッドと陽極電極間のギャップを形成するように、間隔を置かれた関係で配置された、冷陰極電極、ソース・グリッド電極、比較的小さな開口がその中に複数形成された制御グリッド電極、及び陽極電極を有する冷陰極交差界磁モジュレータ・スイッチに於いて、
前記相互電極ギャップ内に比較的低い圧力下のガスを維持するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを貫通するが、しかし残りの相互電極ギャップ内に機能的に十分な貫通がない、集中された磁場を生成するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッドの間に電位差を作り、それによって少なくとも前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを横切って伸びる、電子の源であり且つイオン電荷キャリアであるプラズマを生成するために、前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップ中のガス雰囲気中で前記磁場と相互作用する電界が生成されるように、前記ソース・グリッドに電圧を印加するステップと、
前記プラズマの電位に関して前記制御グリッドに正の電位を選択的に印加することにより、前記プラズマが制御グリッドを通して流れるようにして、前記スイッチを空間電荷制限電子流よりも高いレートで導通させるステップと、
上記プラズマ電位に関して前記制御グリッドに負の電位を印加して制御グリッド電位操作により電流流を中断し、それによって上記陽極電領域に対するプラズマ中断を成し遂げるイオン空間電荷層を前記制御グリッドの周りに作って、前記スイッチを開離するステップと、
を具備することを特徴とするスイッチ開閉制御方法。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、特許請求の範囲第10項に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)は、特開昭55-161334号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載の発明を「引用例発明1」という。)に記載された発明及びINSTRUMENTS AND EXPERIMENT AL TECHNIQUES (Russian Original Vol 15, No 4, Part1, July-August 1972) January, 1973, CONSULTANNTS BUREAU, NEW YORK, US(昭和48年10月26日国会図書館受入れ。)1091-1094頁所収の「POWERFUL TACITRONS AND CERTAIN OF THEIR CHARACTERISTICS IN THE NANOSEC OND RANGE」(以下「引用例2」といい、そこに記載の発明を「引用例発明2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本願第2発明の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本願第2発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定は、いずれも認めるが、相違点についての判断は争う。
審決は、引用例発明2の技術内容を誤認した結果、相違点についての判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 審決は、「引用例2には、制御グリッドの電位を操作することにより、特に、制御グリッドに150-200ボルトの負の電圧を印加することにより、大電流を遮断する、すなわち、大電流に対して開離する技術について言及している。」(審決書15頁6~10行)と認定しているが、引用例2に記載された技術は、本願第2発明が遮断できるような大電流を遮断することができるものではない。
すなわち、引用例2(甲第7号証)には、「タキトロンにおけるグリッド制御は、公称陽極電圧のもとで放電の開始ばかりでなく停止も行う。これは主に、サイラトロンの場合より低いH2圧力(0.05~0.3torr)と、更に間隔を狭くしたグリッドとによって保証される。」(同号証訳文1頁部分訳B4~7行)、「これらの全ての数値によって、150~200Vの負の電圧手段で、タキトロンを流れる電流を切ることができるようになる。」(同2頁部分訳B2~3行)との記載があるが、これらは大電流に対するタキトロンの遮断について記載されたものではなく、本願第2発明に比較して非常に小さい電流の遮断に関して記載されているものである。このことは、引用例2の「電流振幅又はH2圧力が増加すると、タキトロンはサイラトロン動作モードに入る。」(同2頁部分訳B6~7行)と記載されるとおり、電流振幅が増加すると、すなわち、タキトロンに大電流が流れると、サイラトロン動作モードに入り、この動作モードでは、本願明細書に記載されているように(甲第2号証6頁右下欄末行~7頁左上欄3行)、グリッド制御による電流の遮断が不可能となることからも明らかである。
また、引用例2(甲第7号証)には、タキトロンに関し参考文献〔1、2〕が挙げられており(同号証訳文1頁部分訳B1~2行)、その文献の1つ「The Tacitron, A Low Noise Thyratron Capable of Current Interruption by Grid Action (PROCEEDINGS OF THE I.R.E)」(甲第8号証)の第4図(同号証1352頁)によれば、タキトロンは陽極電圧約120Vで380mAの電流遮断能力しかないことが分かるし、同文献の記載(同号証訳文2頁部分訳B)によれば、タキトロンの電流遮断能力は、1Aにもみたないものであって、100~200mA程度を標準として考えており、大きい電流といっても0.5A程度にすぎないものであることが分かる。
しかも、引用例2(甲第7号証)に記載された装置は、放電開始後に電流を遮断して短いパルスを形成するものであり、タキトロンに蓄積コンデンサを用いたパルス電流の転流技術を適用することにより、ナノセカンドの短いパルスを形成するものである(同号証訳文1頁部分訳A、同2頁部分訳C、同頁部分訳D)から、パルス電流を契機として流れ始めた電流が流れ続けないようにしているにすぎないものであり、流れている大電流を途中で中断させる本願第2発明の遮断とは異なるものである。また、引用例発明2は、「磁界を用いることにより、プラズマが陰極とソース・グリッド間のギャップ中に主として生じるようにして、制御グリッドにおけるプラズマ密度を低くする」という本願第2発明の特徴を備えていないので、この点からも制御グリッドの電位操作により大電流の遮断ができないことが明らかである。
これに対して、本願第2発明は、制御グリッドの電位の操作により、大電流の導通のみならず遮断することを目的とするものであり、この目的は、本願第2発明の構成要件により達成されるものである。例えば、本願明細書には、本願第2発明が、175Aの電流遮断能力を有すること(甲第2号証10頁左下欄13~15行)、電圧12kVで250Aの電流遮断能力を有すること(同11頁右上欄24行~左下欄1行、)が示されている。また、本願第2発明を適用して製品化したモジュレータ・スイッチ8454Hのデータシートには、電圧50kVで1000Aの電流遮断能力を有すること(甲第9号証訳文)が示されている。
したがって、引用例2に記載されているタキトロンは、本願第2発明のように定常状態で流れている高電圧における大電流を遮断することのできる装置ではなく、本願第2発明に比較して非常に小さい電流しか遮断できない装置であるから、審決の前記認定(審決書15頁6~10行)は、誤りである。
2 以上のとおり、引用例発明2は、大電流を遮断することができるものではなく、また、引用例発明1は、大電流の導通を開始させることはできるが、導通後の電流の遮断は考慮されておらず、大電流を遮断することができないから、大電流を遮断することができない引用例発明1に同じく大電流を遮断することができない引用例発明2の技術を適用しても、大電流が導通している状態から当該大電流を遮断できる本願第2発明と同等の効果を奏することができないことは明らかである。
したがって、審決が、「引用例2に記載のグリッド開口及びガス圧の条件に基づいてもたらされる作用、すなわち、制御グリッドの電位の操作により大電流の導通のみならず遮断が可能になり、モジュレータ・スイッチとして用いることができるという作用においても、第2発明によってもたらされる作用と差異がない。このように制御グリッドの電位の操作により大電流を導通のみならず遮断を実現する技術が引用例2に記載されて本願の出願前に公知であるから、このような技術を引用発明の制御グリッドに適用して第2発明の構成を得ることは、すなわち、前記各相違点における構成の変更は、当業者が容易になし得たものと認める。」(審決書16頁18行~17頁11行)と判断したことは誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 審決が、引用例発明2について、「大電流を遮断する、すなわち、大電流に対して開離する技術について言及している。」(審決書15頁8~10行)と認定したことは誤りであるが、本願第2発明も、遮断する電流が大電流であることは構成要件とはなっておらず、上記誤りは、相違点についての判断に影響を及ぼすものではない。
すなわち、引用例2の記載(甲第7号証訳文1~2頁部分訳B)によれば、引用例発明2は、「グリッド開口の寸法がグリッドの表面に形成されるイオン空間電離層の厚さより大きくならないようにし」、かつ「低いH2圧力」という、従来のサイラトロンにないタキトロンの構成を有することにより、従来のサイラトロンにおいては、グリッドを負の電圧にしても遮断できなかったような電流を遮断できるものである。そして、H2圧を増加させればサイラトロンのH2圧に近づくのであるから、タキトロンの特性が失われてサイラトロン動作モードに入ることは当然である。したがって、引用例2の「電流振幅又はH2圧力が増加すると、タキトロンはサイラトロン動作モードに入る。」(上記部分訳B2頁6~7行)との記載は、タキトロンがグリッド電圧の制御によりサイラトロンにはない電流を遮断することができるためには、H2圧が低いことが必須であることを意味しているものである。
また、原告が根拠として引く「The Tacitron・・・」(甲第8号証)の第4図は特殊な条件下における特性を示すものであり、これに基づいて、引用例発明2のタキトロンの電流遮断能力が0.5A程度にすぎないとする原告の主張は理由がない。
これに対し、本願第2発明は、従来の放電管では遮断ができなかった電流の遮断ができるようにすることを目的とし、その要旨に示すとおり、グリッド電極の開口を比較的小さなものとし、ガス圧を比較的低いものとする構成により、電流を遮断するものであるから、前記引用例2に記載された技術思想をそのまま適用したにすぎないことは明らかである。
原告が大電流として認識している電流の遮断は、本願明細書の記載(甲第2号証7頁左上欄4~25行、9頁右上欄16行~左下欄2行、10頁左下欄21行~右下欄17行)及び図面第8図、第14図によれば、特定のグリッドの構造及びガス圧においてのみ、例えば、0・1mm~1mmの開口サイズのグリッド構造及び1~50ミリ・トルのガス圧のような特定の条件においてのみ達成できるものであり、このような条件は、本願の特許請求の範囲第11項及び第12項に記載の構成を必須とするものであって、本願第2発明を示す同第10項にはこのような構成は規定されていないのであるから、本願第2発明は、原告が認識している大電流を遮断する構成を必須の要件とするものではない。すなわち、本願第2発明の電流遮断能力について、175Aの電流遮断能力を有するとか250Aの電流遮断能力を有するとする原告の主張は、本願第2発明の構成に基づかない主張であり、失当である。
原告は、引用例発明2の装置は、放電開始後に電流を遮断して短いパルスを形成するものであり、タキトロンに蓄積コンデンサを用いたパルス電流の転流技術を適用することにより、ナノセカンドの短いパルスを形成するものであると主張する。しかし、引用例2の第1図の回路素子がタキトロンの電流の遮断のために必要な蓄積コンデンサであることについての記載はなく、引用例2の第1図の回路は、グリッド電圧の制御によって遮断をなしうることが明らかなタキトロンの動作を測定するためのものにすぎず、タキトロンの電流の遮断に必須のものではないから、原告の上記主張は失当である。また、「磁界を用いることにより、プラズマが陰極とソース・グリッド間のギャップ中に主として生じるようにして、制御グリッドにおけるプラズマ密度を低くする」という構成は、引用例発明1に開示されている。
2 以上のとおり、従来の放電管では実現できなかったグリッド電圧の制御によって電流の遮断をできるようにする引用例発明2の熱陰極を用いた放電管の構成を、放電管である点で技術的に関連し、グリッド電圧の制御によって電流の遮断ができなかった引用例発明1の冷陰極を用いる放電管に適用して、グリッド電圧の制御によって電流の遮断をできるようにすることは、当業者が容易に想到できることである。また、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することによってもたらされる作用効果は、引用例発明2の技術から当業者が容易に予測できるものである。
したがって、審決の相違点についての判断(審決書15頁6行~17頁11行)に誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願第2発明の要旨の認定、引用例1及び2の各記載事項の認定、本願第2発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定、引用例発明2について「大電流を遮断する、すなわち、大電流に対して開離する技術について言及している。」(審決書15頁8~10行)と認定したことが誤りであることは、いずれも当事者間に争いがない。
2 引用例発明2について、引用例2(甲第7号証)には、「タキトロンにおけるグリッド制御は、公称陽極電圧のもとで放電の開始ばかりでなく停止も行う。これは主に、サイラトロンの場合より低いH2圧力(0.05~0.3torr)と、更に間隔を狭くしたグリッドとによって保証される。このグリッドの幾何学的寸法は、印加される電圧の数十倍の負の電圧に対して、グリッド開口の寸法がグリッドの表面に形成されるイオン空間電離層の厚さより大きくならないようにして選択される。」(同号証訳文1頁部分訳B4~9行)、「これら全ての数値によって、150~200Vの負の電圧手段で、タキトロンを流れる電流を切ることができるようになる。陽極電流はグリッド・パルスの中止直後には止まらない。放電消滅の過程は、実質的にグリッド回路内の抵抗の大きさ、グリッドに印加されるバイアス電圧、陽極電流・陽極電圧、H2圧力等により影響を受ける。電流振幅又はH2圧力が増加すると、タキトロンはサイラトロン動作モードに入る。」(同2頁部分訳B2~7行)との記載がある。
この記載によれば、引用例発明2においては、タキトロンのグリッドに負の電圧を印加することによって電流の遮断を行い、当該タキトロンの電流の遮断は、主に、サイラトロンより低いH2圧力(0.05~0.3torr)と、グリッドの厚さをイオン空間電荷層の厚さより大きくない程度に間隔を狭くしてグリッドの周囲にイオン空間電荷層を形成することにより達成されるものであり、H2圧力が増加すると、電流遮断能力が低下することが開示されているから、遮断できる電流を大きくするためには、H2圧力を低くすることが示唆されているものと認められる。
一方、本願第2発明のスイッチの電流遮断の構成については、本願明細書(甲第2~第5号証)に、次の記載がある。
「本スイッチ・システムに於いては、制御グリッド電位操作を通した電流中断は、7A/cm2までの陰極電流密度のために維持されることができる。該スイッチのこの新しい特徴は、4つの要素によって好ましい実施例に於いて可能である。即ち、4つの要素とは、
1. グリッド構造:・・・小開口(直径0.32mm)を有する高透明度(80%)グリッド。
2. 制御グリッド位置: 該制御グリッドは、真空ブレークダウンを考慮して許される位、陽極に接近して配置される。
3. 集中されたイオン化源: 陰極の近くに大いに集中されたカスプ磁場を使用して、イオン化が陰極とソース・グリッドのギャップ中に主として生ずる。
4. 低圧力: 交差界磁放電によって可能とされた低いガス圧力(例えば、1-50ミリ・トルのヘリウム、水素、セシウム又は水銀)が使用される。」(甲第2号証7頁左上欄4~19行、甲第3号証補正の内容(2))
「イオン空間電荷層は、該空間電荷層がグリッド開口半径よりも大きいならば、陽極領域に対するプラズマを中断することを許すグリッドの回りに作られる」(同7頁右上欄1~4行)
「本スイッチの最大中断電流は、制御グリッド開口サイズとガス圧力の両方によって決定される。このスケーリングは、上述された9.5cm直径のテスト・デバイスを使用して実験的に決定し、結果は第14図にプロットされている。・・・結果は、ガス圧力が上がるにつれ、最大中断可能電流が指数的に降下するということを示す。恐らくこれは、圧力が増されるにつれ、増されたイオン化、グリッド近くのより高いイオン密度、及びより小さなイオン空間電界層厚さのためである。中断可能な電流もまた、グリッド開口直径が(第8図に関して述べられたように)減ぜられるにつれ上昇する。」(同10頁左下欄21行~右下欄10行)
そして、本願第2発明の要旨を示す前示特許請求の範囲第10項には、上記実施例の説明に基づき、「比較的小さな開口がその中に複数形成された制御グリッド電極・・・前記相互電極ギャップ内に比較的低い圧力下のガスを維持するステップと、・・・上記プラズマ電位に関して前記制御グリッドに負の電位を印加して制御グリッド電位操作により電流流を中断し、それによって上記陽極電領域に対するプラズマ中断を成し遂げるイオン空間電荷層を前記制御グリッドの周りに作って、前記スイッチを開離するステップと、を具備すること」を、電流遮断に関する構成として規定している。
これらによれば、本願第2発明のスイッチの電流遮断に関する構成は、相互電極ギャップ内に比較的低い圧力下(例えば、1~50ミリ・トル)のガスを維持してイオン密度を低下させ、比較的小さな開口、すなわち、イオン空間電荷層の厚さよりも当該グリッド開口半径が小さく形成された制御グリッド電極に、負の電位を印加して、イオン空間電荷層を制御グリッドの周囲に作ることによりプラズマ中断をなし遂げ、制御グリッド電位操作により電流を遮断し、スイッチを開離するものであると認められる。そして、この構成は、前示引用例発明2における電流遮断のための構成と同様のものであり、実施例に示されたガス圧力についても一部重複するものと認められる。
原告は、本願第2発明が大電流を遮断できるのに対し、引用例発明2は大電流を遮断できない構成である旨主張する。
しかし、本願第2発明の要旨を示す前示特許請求の範囲第10項の記載と、その実施態様項であると認められる本願の特許請求の範囲第11項の「前記制御グリッドの前記開口は、0・1mm乃至1mmの範囲のサイズであることを特徴とする特許請求の範囲第10項に記載のスイッチ開閉制御方法。」、同第12項の「前記ガス圧力は、1乃至50ミリ・トルの範囲であることを特徴とする特許請求の範囲第10項に記載のスイッチ開閉制御方法。」(甲第5号証)との記載によれば、本願第2発明は、その発明の要旨において遮断できる電流の大きさは特定しておらず、また、当業者が通常大電流と認識するような電流、例えば、「5A/cm2(175A総スイッチ電流)」(甲第2号証10頁左下欄14~15行)の遮断は、本願第2発明の実施態様項である上記特許請求の範囲第11項及び第12項に示された特定のグリッドの構造及びガス圧力の条件において達成できるものと認められる。すなわち、本願第2発明は、「比較的小さな開口がその中に複数形成された制御グリッド電極」を有し、「比較的低い圧力下のガスを維持する」ことを規定しているだけであり、上記の実施態様項に示された特定の条件が付された構成を有するものでないことは明らかであるから、本願第2発明は、いわゆる大電流を遮断する構成を必須の要件とするものではないというべきである。したがって、原告の上記主張は、本願第2発明の要旨に基づかないものといわなければならないから、引用例発明2が遮断できる電流の大きさについて検討するまでもなく、採用できないことが明らかである。
なお、原告は、引用例発明2には、「磁界を用いることにより、プラズマが陰極とソース・グリッド間のギャップ中に主として生じるようにして、制御グリッドにおけるプラズマ密度を低くする」という本願第2発明の特徴がないと主張するが、引用例発明1が制御グリッドにおけるプラズマ密度を低くするために、「前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを貫通するが、しかし残りの相互電極ギャップ内に機能的に十分な貫通がない、集中された磁場を生成するステップ」という構成を有し、本願第2発明と一致すること(審決書11頁2~13行、13頁1~4行)は、当事者間に争いがないことであり、審決はその他の相違点に係る構成に関して引用例発明2の技術を適用しようとするものであるから、原告の上記主張は、それ自体失当である。
そうすると、引用例発明1と本願第2発明との相違点1~4に係る構成について、引用例発明2の上記構成を採用することにより、電流の導通のみならず遮断が可能となり、モジュレータ・スイッチとして用いることができることは明らかであるし、引用例発明1及び2は、制御グリッドを有する電磁界スイッチという同一の技術分野に属するものであるから、当業者にとって、引用例発明1に引用例発明2の構成を採用することに格別の困難性はないものというべきである。
また、原告は、大電流を遮断することができない引用例発明1に同様の引用例発明2の技術を適用しても、大電流を遮断できる本願第2発明と同等の効果を奏することできないと主張するが、本願第2発明が大電流を遮断できる構成に限定されないことは、前示のとおりであるし、その他の本願第2発明の効果についても、引用例発明1に引用例発明2の技術を適用することにより、容易に予測できる範囲内のものと認められるから、上記主張は採用できない。
したがって、審決の相違点に関する判断(審決書15頁6行~17頁11行)に、誤りはない。
3 以上のとおりであるから、審決の判断は正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成3年審判第13625号
審決
アメリカ合衆国 カリフオルニア州 90045-0066 ロサンゼルス、ヒューズ・テラス 7200
請求人 ヒューズ・エアクラフト・カンパニー
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 鈴江武彦
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 村松貞男
東京都千代田区霞が関3丁目7番2号 鈴榮内外國特許事務所内
代理人弁理士 花輪義男
昭和60年特許願第501911号「スイッチ開閉制御方法」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年12月 5日国際公開 WO85/05489、昭和61年 9月25日国内公表 特許出願公表昭61-502153号)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、1985年4月17日(優先権主張1984年5月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、その発明の要旨は、昭和61年11月28日付、平成3年1月17日付および平成3年8月13日付の手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項、第10項、第16項、第30項、および第34項に記載されたとおりのものと認められ、その第10項に記載の発明は、次のとおりのものと認める。
「冷陰極電極とソース・グリッド間のギャップソースグリッドと制御グリッド間のギャップ、及び制御グリッドと陽極電極間のギャップを形成するように、間隔を置かれた関係で配置された、冷陰極電極、ソース・グリッド電極、比較的小さな開口がその中に複数形成された制御グリッド電極、及び陽極電極を有する冷陰極交差界磁モジュレータ・スイッチに於いて、
前記相互電極ギャップ内に比較的低い圧力下のガスを維持するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを貫通するが、しかし残りの相互電極ギャップ内に機能的に十分な貫通がない、集中された磁場を生成するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッドの間に電位差を作り、それによって少なくとも前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを横切って伸びる、電子の源であり且つイオン電荷キャリアであるプラズマを生成するために、前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップ中のガス雰囲気中で前記磁場と相互作用する電界が主成されるように、前記ソース・グリッドに電圧を印加するステップと、
前記プラズマの電位に関して前記制御グリッドに正の電位を選択的に印加することにより、前記プラズマが制御グリッドを通して流れるようにして、前記スイッチを空間電荷制限電子流よりも高いレートで導通させるステップと、上記プラズマ電位に関して前記制御グリッドに負の電位を印加して制御グリッド電位操作により電流流を中断し、それによって上記陽極電領域に対するプラズマ中断を成し遂げるイオン空間電荷層を前記制御グリッドの周りに作って、前記スイッチを開離するステップと、
を具備することを特徴とするスイッチ開閉制御方法。」
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭55-161334公報(昭和55年12月15日公開)(引用例1という。)には、冷陰極格子制御交差電磁界スイッチの構成の説明として「陽極電極と陰極電極とソース電極とを有し、前記陰極およびソース電極の一方が電子通過可能な開口部を有する少なくとも3個の電極と、前記ソース電極を前記陰極に近接して前記3電極間に2個の内部電極ギャップを形成する離間関係に前記電極を支持する電気絶縁手段と、前記内部電極ギャップに所定圧でガスを充満する手段と、前記内部電極ギャップ間に延在する電界を形成するように前記陽極電極と前記陰極電極に電気回路を結合する手段と、前記ソース電極と前記陰極との間の内部電極ギャップを貫通するが残りの電極ギャップには機能的に重要な貫通を与えない磁界を発生し、この磁界は前記ソース電極と陰極電極との間の前記内部電極ギャップのガス雰囲気に於ける電界と相互作用し電子とイオン電荷キャリアの発生源であるプラズマを形成する手段と、電荷キャリアの発生及びその後に於ける前記プラズマから前記陽極への移動が前記交差電磁界放電装置の導通を開始させるように静電界を形成する為前記ソース電極に電圧を印加する手段とを具備する交差電磁界放電装置。」の記載(特許請求の範囲第1項)(記載1という。)、前記ソース電極と陽極との間に制御格子とする第4電極を設け、これに負の電圧を印加して充分な電荷キャリアを与えるソースプラズマが形成されるまで導通を抑制し、その後正電圧を加えて導通を開始させることの説明として「制御格子として機能する為ソース格子と陽極との間に少なくとも第4電極が配置され、ソースプラズマが全導通を実現するに充分な電荷キャリアを前記陽極回路に与える為に必要な電流に上昇する迄負電位を制御格子に結合し、そしてその後低電力信号で導通を開始する為に正電圧を制御格子にパルス入力する手段を有する」の記載(特許請求の範囲第6項、同項において制限格子に結合しと記載のあるのは、制御格子に結合しの誤記であることは明かである。)(記載2という。)、前記冷陰極格子制御交差電磁界スイッチによる大電子流に対するスイッチの開離に関する説明として「大電子流に対しては、導通は空間電荷を制限するようになる。陽極・制御格子ギャップに於ける電子の蓄積は、格子をプラズマ中に浸している制御格子を介して中性イオンを引き込む。このとき、格子制御は失われる。陽極と制御格子への電流供給が一旦停止されると、プラズマは消失し、スイッチは初期の非導通状態に戻る。」(第4頁下段左欄末3行-同右欄5行)(記載3という。)、前記4個の電極を有する具体的構成を説明するものとして「このスイッチング動作を改善した交差電磁界スイッチは、第4図に示されている。交差電磁界スイッチSは4つの略同軸の円筒形電極で構成され、内部陽極Aと、ソース格子Gsと、制御電極即ち格子Gc及び外部陰極Kとを含んでいる。適当な圧力のガスは全ての電極ギャップあるいは内部電極スペースを充満している。」の記載(第4頁上段左欄8行-同14行)、および「陰極K付近に配置されたコイルアレイC(右側に図示)(第4図)叉は永久磁石アレイM(左側に図示)(第4図)は、ソース格子・陰極ギャップ内で、電極面に実質的に平行な軸成分を有する磁界Fを生じさせる。」の記載(第4頁上段右欄4行-8行)、前記冷陰極交差磁界スイッチの作動の説明として「図示された本発明の実施例に於いては、磁界Fが理想的には図示されているようにソース格子・陰極ギャップだけに延び、しかも残りのギャップには全く入り込まないかまたは入り込んでも若干であるように磁界発生アレイが形成される。」の記載(第4頁上段右欄12行-同17行)、「ここでの磁界Fは、陽極・制御格子ギャップでのプラズマを、低陽極電圧によっても維持できる程度であり、決して強度の大きいものではない。このことは、陽極電圧がソース格子・陰極ギャップでの磁界を遮断しないで再印加させることを意味している。固定磁界しか必要とされないので、パルス化磁界は削除される。
陽極導通は、格子・陰極ギャップから陽極・格子ギャップヘプラズマを通すことによってトリガされた、交差電磁界放電により行われる。」の記載(第4頁上段右欄末2行-同下段左欄9行)がある。
また、原査定時に引用され、本願明細書においても先行技術とし七挙げている、本願の出願前に頒布された刊行物「INSTRUMENTS AND EXPERIMENT AL TECHNIQUES (RuSSian Origina1 Vol 15, No 4, Part 1, July-August 1972) January, 1973年、CONSULTANNTS BUREAU, NEW YORK, US発行」の第1091-1094頁参照(昭和48年10月26日国立国会図書館受け入れ)(引用例2という。)には、熱陰極を用いるものであるが、サイラトロンより低い水素圧、具体的には0.05-0.3torr、に維持し、グリッドを構成する格子を密に配置すること、制御グリッドのグリッドアパチャー、すなわちグリッド開口、をグリッドの表面に形成されるイオンシース、すなわちイオン空間電荷層、の厚さ以下にすることにより、制御グリッドに150-200ボルトの負の電界を印加することによりスイッチオフすることができる、すなわち、制御グリッドの制御により放電の開始と停止をなしうること、および、モジュレータ回路に用いられること、すなわちモジュレータ・スイッチとして用いられること、が記載されている。
そこで、本願の第10項に記載の発明(以下、第2発明という。)と引用例1に記載されている発明(以下、引用発明という。)とを対比検討すると、
引用発明における陰極電極は、第2発明の冷陰極電極に相当し、ソース格子Gsは、第2発明のソースグリッドに相当し(前記記載1参照)、引用発明における第4の電極(制御格子Gc)は、第2発明の開口が複数形成された制御グリッドに相当するものと認められる(前記記載2参照)。そして引用発明は陰極交差電磁界スイッチであり、前記陰極電極、ソース格子Gs、第4の電極(制御格子Gc)および陽極電極は、前記記載1における、前記ソース電極を前記陰極に近接して前記3電極間に2個の内部電極ギャップを形成する離間関係に前記電極を支持する、という記載および前記記載2における制御格子として機能する為ソース格子と陽極との間に少なくとも第4電極が配置される、という記載から見て各々の間にギャップが形成されて配置されているから、この構成は、第2発明における、冷陰極電極とソース・グリッド間のギャップ、ソースグリッドと制御グリッド間のギャップ、及び制御グリッドと陽極電極間のギャップを形成するように、間隔を置かれた関係で配置された、冷陰極電極、ソース・グリッド電極、開口がその中に複数形成された制御グリッド電極、及び陽極電極を有する冷陰極交差界磁スイッチに相当するものと認められる。引用発明における、前記内部電極ギャップに所定圧でガスを充満する(前記記載1参照)、の構成は、第2発明における、前記相互電極ギャップ内にガスを維持するステップ、の構成に相当し、引用発明における、前記ソース電極と前記陰極との間の内部電極ギャップを貫通するが残りの電極ギャップには機能的に重要な貫通を与えない磁界を発生し、この磁界は前記ソース電極と陰極電極との間の前記内部電極ギヤップのガス雰囲気に於ける電界と相互作用し電子とイオン電荷キャリアの発生源であるプラズマを形成する(前記記載1参照)、の構成は、第2発明における、前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを貫通するが、しかし残りの相互電極ギャップ内に機能的に十分な貫通がない、集中された磁場を生成するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッドの間に電位差を作り、それによって少なくとも前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを横切って伸びる、電子の源であり且つイオン電荷キャリアであるプラズマを生成するために、前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップ中のガス雰囲気中で前記磁場と相互作用する電界が生成されるように、前記ソース・グリッドに電圧を印加するステップ、に相当し、引用発明における正電圧を制御格子に加えて導通を開始する構成は(前記記載2参照)、第2発明における、前記プラズマの電位に関して前記制御グリッドに正の電位を選択的に印加することにより、前記プラズマが制御グリッドを通して流れるようにして、前記スイッチを空間電荷制限電子流よりも高いレートで導通させるステップ、に相当するものと認める。
したがって、両者は、
「冷陰極電極とソース・グリッド間のギャップ、ソースグリッドと制御グリッド間のギャップ、及び制御グリッドと陽極電極間のギャップを形成するように、間隔を置かれた関係で配置された、冷陰極電極、ソース・グリッド電極、開口がその中に複数形成された制御グリッド電極、及び陽極電極を有する冷陰極交差界磁スイッチを用いたスイッチ方法に於いて、
前記相互電極ギャップ内に所定のガス圧を維持するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを貫通するが、しかし残りの相互電極ギャップ内に機能的に十分な貫通がない、集中された磁場を生成するステップと、
前記冷陰極とソース・グリッドの間に電位差を作り、それによって少なくとも前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップを横切って伸びる、電子の源であり且つイオン電荷キャリアであるプラズマを生成するために、前記冷陰極とソース・グリッド間のギャップ中のガス雰囲気中で前記磁場と相互作用する電界が生成されるように、前記ソース・グリッドに電圧を印加するステップと、
前記プラズマの電位に関して前記制御グリッドに正の電位を選択的に印加することにより、前記プラズマが制御グリッドを通して流れるようにして、前記スイッチを空間電荷制限電子流よりも高いレートで導通させるステップを具備することを特徴とするスイッチ方法」
である点で一致し、次の点で相違する。
1、 第2発明では、制御グリッドに形成されている開口を比較的小さいと限定しているのに対して、引用発明では、開口の大きさについて言及していない点。
2、 第2発明では、モジュレータ・スイッチであるのに対し、引用発明は、単なるスイッチである点。
3、 第2発明では、電極ギャップ内に維持するガス圧を比較的低い圧力であると限定しているのに対し、引用発明では、所定圧としているのみである点。
4、 第2発明では、制御グリッドにプラズマ電位に関して負の電位を印加して制御グリッドの電位操作により電流流を中断し、それによって上記陽極電領域に対するプラズマ中断を成し遂げるイオン空間電荷層を制御グリッドの周りに作って、スイッチを開離するのに対し、引用発明では、このような開離を制御電極によって行うことはできないとしている点。
相違点について検討する。
前記相違点の記載においては、第2発明と引用発明との相違について、個々に挙げているが、これらは相互に密接に関連する、すなわち、相違点1と3は、相違点2と4の作用をもたらすための条件に相当するものである。そこでこれらの相違点について一括して検討する。
引用例2には、制御グリッドの電位を操作することにより、特に、制御グリッドに150-200ボルトの負の電圧を印加することにより、大電流を遮断する、すなわち、大電流に対して開離する技術について言及している。すなわち、引用例2に記載の技術は、熱陰極、制御グリッドおよび陽極から成り、熱陰極を用いるものであるが、大電流に対する遮断は、水素ガス圧をサイラトロンより低い圧力、すなわち、0.05-0.3torr、に維持し、グリッドを構成する格子を密に配置すること、グリッドの開口をグリッド表面に形成されるイオンシース、すなわちイオン空間電荷層、の厚さ以下にすること、の条件の下で、制御グリッドに負の電位を印加することによりイオンシース、すなわちイオン空間電荷層、を制御グリッド周りに作ってプラズマ断面を変えることによって実現できるとしている。
この引用例2の技術における、イオンンシース、すなわちイオン空間電荷層、とグリッド開口の大きさとの関係は、本願の明細書第11-12頁におけるグリッド構造に関する言及、特に第12頁第1行-第4行における電流の中断についての、イオン空間電荷層とグリッド開口半径との関係と同じであるし、引用例2の技術におけるガス圧の限定、すなわち、ガス圧が低いことの限定は、前記本願の明細書における実施例として記載された電流の中断についての、ガス圧の条件と一部重複するし、すなわち引用例2における0.05torrの条件は前記本願明細書における実施例の50ミリ・トル、すなわち0.05torr、に相当するし、ガス圧条“の件の比較的低い圧力”の条件は、電流の中断において両者の間に格別の技術的差異は認められない、そして、このような引用例2に記載のグリッド開口及びガス圧の条件に基づいてもたらされる作用、すなわち、制御グリッドの電位の操作により大電流の導通のみならず遮断が可能になり、モジュレータ・スイッチとして用いることができるという作用においても、第2発明によってもたらされる作用と差異がない。
このように制御グリッドの電位の操作により大電流を導通のみならず遮断を実現する技術が引用例2に記載されて本願の出願前に公知であるから、このような技術を引用発明の制御グリッドに適用して第2発明の構成を得ることは、すなわち、前記各相違点における構成の変更は、当業者が容易になし得たものと認める。
したがって、第2発明は、引用発明および引用例2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成5年12月7日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人被請求人のため出訴期間として90日を附加する。